横浜地方裁判所 昭和24年(行)1号 判決 1949年11月02日
平塚市新宿千九十五番地
原告
守山謙
右訴訟代理人弁護士
水田猛夫
被告
大磯税務署長 加藤光雄
右訴訟代理人
法務庁事務官
鈴木喜代麿
同
望月伝次
同 大蔵事務官
藤田儀三
同
鳥養昌平
主文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告が昭和二十三年七月五日原告に対してなした原告の財産税課税価格を金百八十九万円とするむねの更正を取り消す。」との判決をもとめ、請求の原因を左のようにのべた。
「原告は、昭和二十一年三月、その財産税課税価格を金八十万四百九十一円と申告したところ、被告は、昭和二十三年七月五日、原告の財産税課税価格を金百八十九万円と更正してきた。しかしながら、原告の所有財産の課税価格は,申告課税価格のほかには、家財道具類の評価格金六万七千四百一円八十三銭が存するのみであつて右更正は、何ら理由のない違法なものであるから、その取消をもとめるため本訴におよんだ。
なお、原告が被告から右更正決定の通知をうけたのは、昭和二十三年八月二十日であつたから、同月中に、政府に対して、不服の事由を具し、被告を経由して口頭をもつて審査の請求をなしたにもかかわらず、その後三ケ月以上経過した現在まで、右請求に対する決定がないものである。」
被告訴訟代理人は、主文第一項と同旨の判決をもとめ、その理由を左のようにのべた。
「被告は、昭和二十三年七月五日、原告に対し、本件更正の通知を発したのである。したがつて、原告は、おそくとも、同月七日には右の通知をうけているから、右更正に対して異議があるときは、まず、財産税法第五十一条第一項所定のごとく「通知を受けた日」すなわち、右七月七日から一ケ月内に審査の請求をしなければならないのみならず、行政事件訴訟特例法第五条第一項所定のごとく、「処分のあつたことを知つた日」すなわち、右七月七日から六ケ月内に(昭和二十四年一月七日まで)に訴を提起しなければならないのに、原告は、右のいずれの手続をもふんでいない。かりに、原告主張のごとく、原告が八月二十日の更正の通知をうけたとしても、政府に対する審査の請求は、書面をもつてなすべきものであるから、口頭による審査の請求は不適法であつて何らの効力を有しない。ゆえに、本件訴は、不適法であつて却下されるべきものである。」
つぎに、本案に対し、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決をもとめ、左のように答弁した。
「原告の主張事実中、その主張のごとく、原告が財産税課税価格を申告したのに対し、被告が更正をなしたこと、原告が評価格金六万七千四百一円八十三銭の家財道具類を有することはこれを認める。
しかしながら、原告は、右原告主張のような財産のほかに、訴外株式会社守山商会名義による駿河銀行平塚支店に対する当座預金債権金六十二万二千二百九十八円十七銭、ならびに、右守山商会に対する貸金債権金四十万円を有している。
したがつて、本件更正は、何ら違法ではない。」
証拠として、原告訴訟代理人は、甲第一号証、同第二号証の一ないし五、同第三号証を提出し、証人大貫粛、同小室繁雄、同青木進の各証言と原告本人尋問の結果を援用し、乙第七号証の一ないし三は知らないとのべ、その他の乙号各証の成立を認めた。
被告訴訟代理人は、乙第一号証ないし同第三号証、同第四号証の一、二、同第五号証、同第六号証の一、二、同第七号証の一ないし三を提出し、証人金子勝利、同藤田儀三の各証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。
理由
原告が昭和二十一年三月その財産税課税価格を金八十万四百九十一円と申告したところ、被告は昭和二十三年七月五日原告の財産税課税価格を金百八十九万円に更正したことは当事者間に争がない。
つぎに、成立に争のない乙第四号証の二および同第五号証、証人金子勝利、同藤田儀三の各証言によれば、昭和二十三年七月五日、右更正通知書が原告あてに発送せられたことを認めることができる。
しかして、成立に争のない乙第六号証の一、二、および、成立に争のない乙第四号証の一、二、同第五号証により真正に成立したものと認める乙第七号証の一、三、ならびに前記各証人金子勝利の証言によれば、右の更正通知書が原告に到達したのは、同年七月七日であると認定するのを相当とし、証人大貫粛、同青木進の各証言ならびに原告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は信用しえない。
しからば、原告が右更正に対して異議があるときは、財産税法第五十一条第一項所定のごとく、通知をうけた日、すなわち、右七月七日から一ケ月以内に審査の請求をしなければならないのにかかわらず、右期間内に請求をなしたことを認めるにたる証拠がない。
したがつて、本件訴は、その余の点について判断するまでもなく不適法であつて却下されるべきものである。よつて、訴訟費用は、敗訴の原告に負担せしめて主文のように判決する。
(裁判長裁判官 牧野威夫 裁判官 荒木大任 裁判官 草野隆一)